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集英社版学習まんが『世界の歴史』5巻を史学科加藤教授が監修

2024.12.10

新学習指導要領に合わせて22年ぶりのリニューアル

史学科加藤教授

世界史に限らず初めて歴史に触れたのが、子どもの頃に手に取った「学習まんが」だった方も多いのではないでしょうか?このたび、集英社版の学習まんが『世界の歴史』が22年ぶりにリニューアルされ、その5巻目『キリスト教とヨーロッパの発展~中世ヨーロッパ~』を本学文学部史学科の加藤玄(かとうまこと)教授(専門:フランス中世史、中世英仏関係史)が監修しました。学習まんがの監修とはどのようなことをするのか? 22年で世界史に変化はあったのか?加藤教授に伺いました。

依頼から発売まで足掛け約5年半
中世ヨーロッパの社会の仕組みを伝える

監修の依頼をいただいたのは、たしか2019年の4月で、私がフランスで1年間の研修を始めた頃でした。コロナ禍による中断や、他の巻と進行の足並みを揃えるための待機期間もあり、2024年10月の発売まで約5年半を要したことになります。本書の監修の仕方は少し特殊で、全巻の総合アドバイザーをムンディ先生の愛称で呼ばれている教育YouTuberの山﨑圭一(やまさきけいいち)先生が務めています。ですので、シナリオライターや編集者、ムンディ先生がまとめた案を私が中世史の専門家の目で確認し、アドバイスをさせていただくという形で制作は進行しました。
歴史の「学習まんが」では、たとえば「ナポレオン」や「リンカーン」など、その巻の主人公となる登場人物の性格や行動にフォーカスしたものを想像する方も多いかもしれません。しかし、今回の『世界の歴史』は、高校の教科書を資料として参照していることもあり、当時の社会制度や政治的、経済的、宗教的な背景をしっかり書き込むことを意識しましょうと、依頼をいただいた当初から確認をしていました。国王などリーダーの性格や能力だけで歴史的な物事が動いていると考えるのは、やはり少し単純化しすぎですよね。

バイキングの兜に角はなく
ジャンヌ?ダルクは金髪ではない

私の担当した5巻は、中世ヨーロッパを扱っています。5世紀後半から15世紀半ばまでの約1000年という長い期間なので、盛り込む内容の取捨選択に苦労しました。
本書の制作はプロット、シナリオ、ネーム、下絵、完成原稿と進んでいきましたが、その都度内容を確認して、史実や現代の歴史観に合わせた指摘をさせていただきました。
一例を挙げると、ひと昔前までは「ゲルマン民族」と呼んでいたものを、現在は「ゲルマン人」と呼んでいます。これは、「ゲルマン」が同じ出自の集まり(民族)ではなく、プロジェクト—その最大のものは戦争でしたが—としてさまざまな出自の人々が集まって、移動しながら諸国家を建国していったからです。イラストの例では、バイキングの兜には角がついているイメージがあるかと思いますが、じつはそのような遺物は1つも残っていないので、角の描写を削除してもらいました。また、ジャンヌ?ダルクの髪は金髪で描かれることが多いのですが、同時代の史料で確認できる限りでは黒髪だったようなので、表紙には、人気マンガ『ブラッククローバー』の作者の田畠裕基さんに黒髪のジャンヌ?ダルクを描いていただきました。
ほかにこだわった点もお話しすると、国王や教皇など、スポットが当たりやすい人物だけではなく、市井の人の暮らしの様子も入れてもらうようにしました。本書では、村から都市に行き、靴職人のギルドで徒弟として奉公する架空の少年を登場させ、農村と都市の生活を対比させて描いています。単に栄えているだけではなく、衛生状態が悪く、疫病も流行ってしまう都市の陰の部分も描いてもらいました。

加藤教授

自ら問いを立てることで
歴史がより面白く

近年の歴史学の考え方に、「パブリック?ヒストリー」というものがあります。「歴史は誰のものなのか?」「歴史を書くのは誰なのか?」という問題意識を持って、社会に開かれた歴史学であるべきだという考え方です。パブリック?ヒストリーのもとでは、学習まんがもそうですが、テレビドラマやゲームなどでも、学術的に見ると少々違和感がある部分があっても、社会が受け入れている歴史観であれば、ある程度は尊重し、最終的には制作者が説得力を持って書ける(描ける)内容にしていきます。今回も、史実として残っていない登場人物のセリフなどは、正解があるわけではないので、制作される方々にお任せしました。
また、本書が対応している高校の新しい学習指導要領では、「問い」や「探究」が重視されています。つまり物事を暗記するだけではいけないということです。当たり前のことですよね。歴史学の「問い」の基本は因果関係なので、本書でも自ら問いを立て、その答えを見つけるヒントが探せるような構成を心掛けています。本書を読んでさらに歴史を深く学びたくなったら、巻末の参考文献も手に取っていただくのが良いでしょう。
ちなみに、歴史学に限った話しではありませんが、大学で学ぶもっとも重要なことも「良い問いを立てる」方法や技術です。これは「良い答えを出す」ことよりもずっと大切です。

最後に、歴史は“決まっているもの”だと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそうではありません。歴史の解釈は現代の人々の視点ですから、現代の状況が変われば、それまでの歴史の解釈にも見直しがなされます。私の専門である中世ヨーロッパであれば、1993年の欧州連合(EU)の発足が、歴史観の変わる大きな転換点でした。
現代では10年単位で歴史観が変わっていくといっても過言ではないでしょう。それだけ社会の変化が激しい時代に私たちは生きているとも言えますね。

加藤教授が監修した『世界の歴史』と22年前に初版が出版された以前の『世界の歴史』
加藤教授が監修した『世界の歴史』(写真左)と22年前に初版が出版された以前の『世界の歴史』(写真右)